第5弾 「社会を変革できるリーダーの育て方 ~大学の取り組みと企業の目線からみるリーダーとは~」

企業が求めるグローバル人材 ~労働市場の自由化・流動化に耐えられる人材の基礎~

関西学院大学教授の肩書きはもつが、私の活動のメインは企業のグローバル化、人材育成のお手伝い。これまで100以上の企業・団体の人材開発や研修に関与し、累計2500人にインタビュー、3万人にグローバル化や人材マネジメントについて研修を行ってきた。今回は、主にビジネスの側面からグローバル人材について提言していきたい。
どれだけグローバル化が進んでいるかは、さかんにいわれているのでお話するまでもないだろう。しかし、変革に対する国内の動きはあまりにも遅い。現在を幕末にたとえれば1858~60年くらいではないか。すでに5~7年も前に黒船は来ているのに、まだ江戸幕府は倒れないと悠長に構えている人があまりにも多すぎる。
顕著なのが労働市場だ。日本の労働者も、海外の労働者と競争する時代、職を奪い合う時代になっているのに、国内の危機感はあまりにも希薄だ。いまのままなら、労働集約型の仕事だけでなく知識集約型の部分でも、早晩、中国やインドの人たちに対抗できなくなるだろう。ハングリー精神旺盛で死に物狂いで勉強する彼らに、果たして日本の若者は勝てるだろうか。
そうした点をしっかり踏まえて、大学人は世界との競争に勝ち抜く人材育成に取り組まなくてはいけないのだ。「これからの世界は景気が回復しても雇用は増えない」がグローバルな論調であることも、ぜひ知っておいてもらいたい。

では、あるべきグローバル人材とは? 企業はどんな人材を求めているか? それについてお話ししよう。
求めている資質の第一は、「激変を前提とするタフさと柔軟性」だ。これからは、従来の延長線上ではあり得ない。変化の激しい時代を生き抜くためには、強い精神力が不可欠だ。次に必要なのが、「英語力をもとにしたコミュニケーション力」。英語が話せることは大前提になっていることを忘れてはいけない。そのうえでのコミュニケーション力。英語ができないと就職のネックになる――その傾向はますます強まっていくはずだ。
3つ目は「世界標準の専門性を磨く」。そして、4番目は「幅広い教養・哲学思想」。私自身は世界で最も多くノーベル賞受賞者を出しているケンブリッジ大に1年間留学したが、ケンブリッジの強みのひとつが、この「幅広い教養・哲学思想」である。カレッジ(寮のようなもの)の中では、世界中の人たちと専門分野を越えて話をし議論をする。そうやって教養が磨かれていく。福島の原発事故をみるまでもなく、哲学的なベースがなければ、複雑な問題は解決できなくなっている。ここは大学人として大いに見直すべき点である。
そして、最後は「論理的思考力」だ。実は、論理的思考の研修は、マネジメントの研修とならんで最も多い。手元にあるデータから仮説を立て実行するなど論理的思考力の育成は、大学教育においてももっともっと注力すべきだろう。

さて、企業の人材開発は、優秀な社員を選抜し、彼らに集中投資する傾向にある。また、OJTからOffJT重視に移行している。みなさんの大学はどうだろうか。ビジネス人材のための教育はできているだろうか。果たして、卒業生たちは集中投資の対象となる人間に選ばれるだろうか。
以上を踏まえて大学における人材開発のポイントを挙げると次のようになる。(1)「全員に1年間の留学を経験させる。授業の半分は英語で実施」、(2)「ディベートやプレゼンテーションの活発化」、(3)「教養課程の充実・強化」、(4)「経営基礎を学ぶ」、(5)「学生起業を推進する」。加えて、大学は海外との提携を積極的に進め、学生同士の交流を盛んにすべきである。グローバル人材同士の研鑽――それによって、P.F.ドラッカーの言う「生涯にわたって継続的に学習する人間」「自己を高めるために何を学ぶかを絶えず問い続ける人間」は生まれてくる、と私は考えている。

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山中 俊之氏(やまなかとしゆき)

関西学院大学経営戦略研究科教授。東京大学法学部卒。90年、外務省入省。対中東外交、地球環境問題などを担当。2000年、日本総研に転じ、組織や人事改革の研究を担当。2010年より現職。ケンブリッジ大学社会政治学修士。大阪大学国際公共政策博士。著書に『公務員人事の研究』など。

山中 俊之氏(やまなかとしゆき)